読書という旅 巨大桶の背後に広がる文化、思想、エコシステム(『巨大おけを絶やすな!』 竹内早希子)

読書

伝統工芸の魅力、当たり前の事実の相対化

こんにちは

皆さんは、伝統工芸はお好きでしょうか。私は、少し好きですね。具体的には和包丁や和時計、下駄、古民家なんかに少し興味があって、これらは製品単品だけでなく、その背景にある文化や思想に触れられるのがいいですよね。

和包丁であれば、今では滅多になくなりましたが魚を捌くために片刃ですし、和時計は農作業の時間に合わせて、1時間の長さが季節に応じて変動する不定時法ですし、下駄は踵着地ではなく足裏全体で着地するフラットフッティングです。古民家は、電気がなく大家族で職住一致です。そういう作りが当時は合理的だったということです。現在当たり前として受け入れていて、疑問に思うことすらない事実を相対化する機会として魅力を感じます。

今回ご紹介する、『巨大おけを絶やすな!日本の食文化を未来へつなぐ』は、桶です。それも、庶民が日常生活に使うような小さい桶ではなく、酒や醤油、味噌などの製造で使われる2mを超えるような巨大な木おけです。

あらすじ

始まりは、小豆島にある、ある醤油メーカーです。朝見回りをしていると、巨大な木桶で熟成させているもろみが大幅に減っていることに気づきます。4年かけて熟成させたもろみなので、慌ててバケツで別のおけに移すのですが、底板が一つ抜けてしまっています。

そこで、日本で唯一の大桶づくりの技術を持った藤井製桶所に注文するのですが、そこで衝撃の事実を聞かされます。醤油屋から新おけの注文が入ったのは、2009年のこの時が戦後初だというんです。つまり64年ぶりということです。

このような巨大な木桶は、一度作れば100年〜150年もちます。そうすると、同じお客様からの次の発注は生産が拡大しない限り早くても100年後です。醤油以外にも、酒やみりん、味噌、酢などがあれば発注が入り、採算ラインに乗ってくるということもありますが、それらも合わせてどんどんステンレス製などに置き換わっていて、現代では木おけで製造される醤油は、1%以下。残りはステンレス製やFRP製などです。

そうすると、発注自体が少なくなり、仕事として成り立たないんですね。だから、大阪の藤井製桶所が日本で唯一のメーカーとなってしまい、そんな藤井製桶所でも新おけの発注は戦後初ということです。醤油屋からは、であり、酒屋からは2002年に発注がありこれが戦後初です。それでも57年ぶりということになります。正直、57年に1回という発注が仕事として成り立ちようもないですよね。人によっては死んじゃいますからね。

そして、それを知った醤油メーカーは、自分たちの使う大桶製造の技術を未来に継承させようと、自分たちで大桶製造に挑む、というストーリーです。

魅力

現代では大量生産という意味では時代遅れとなった木桶ですが、室町時代のようですが木桶の製造技術が確立した時は画期的なイノベーションだったようです。この巨大な木おけによって、当時高級品だった酒や醤油、味噌、酢といった飲み物や調味料の大量生産が可能となり、食文化や流通の仕組みを大きく変えて、発酵調味料を主体とした現在の和食の原型が完成したようですね。

流石に現代では、ステンレスでいいじゃないか、となるのですが、乳酸菌や酵母といった微生物が、木桶だけでなく柱や梁などに住み着いていて、それらの微生物の発酵作用によって大手の醤油メーカーとは異なるユニークな醤油を作ることができるようです。

ちなみに、『英国一家、日本を食べる』というアニメでは、ライバルメーカーの醤油蔵に納豆菌を持ち込んで、その納豆菌によって醤油蔵の発酵影響を破壊しようというスパイが登場します。微生物の生育は、温度や湿度といった気候環境と不可分でしょうから、簡単にはデジタル化して再現できない物づくりだという感じがします。

作る

大桶製造に取り組む醤油メーカーなのですが、接着剤などは一切使わないので、ただ作るというだけでも高度な技術が必要なのですが、それに加えてそもそも使用する木がないとか、工具がないとか、たがに使う竹がないとか、そう言った上流工程の問題にも直面します。

木は、樹齢100年を超える杉の甲付きという部分が求められます。正直台という1mm以下で加工するかんなの一種を使います。また、たがに使う竹は、一般的な孟宗竹ではなく節の少ない真竹を使うが、15mを超える真竹がないんですね。一度失われてしまうと、製品単体やその製造技術だけではなく、それを作る素材、工具、技術、人、製品需要と、エコシステム全体として機能させていくことの難しさがよく現れていました。

まとめ

プルーストは、「真の旅の発見は、新しい風景を探すことではない。
新しい目で見ることなのだ。」と言ったようですが、その意味で読書も旅と言えるかもしれません。

今回は、巨大桶という製品を通して「新しい目」を感じることができました。

本日は以上です。また次の読書でお会いしましょう。

おまけ

読むのは1時間半くらいだったが、これをまとめるのは時間がかかった。理由は内容をまとめているから。やめたいですね。できれば、インサイトみたいなのを提供できるといいんですけどね。

あと、内容について言えば、後半、桶を作るイベントみたいになって、全国から酒蔵や発酵調味料のメーカーが集まってきてお祭りみたいになるんですけど、それ自体は素晴らしい成果だと思うんですが、読んでる方としてはやや退屈でしたね。

 

【英文(原語はフランス語)】

The real voyage of discovery consists not in seeking new landscapes, but in having new eyes.

その他事実

  • 巨大な木おけは200万円以上
  • 木おけは水分を吸ったり蒸発で失われる欠減が大きい。ウイスキーは天使の分け前(エンジェルズシェア)と言われる。酒の話
  • 杉は日本固有種
  • 木おけはヨーロッパで、ウイスキーのために生まれた

コメント

タイトルとURLをコピーしました