ブロックチェーンをビジネスで活用する デジタルデータの高い耐改竄性をローコストに実現する、そのことのインパクトをイメージできるか(本の小並感 176)

読書

本屋でチラ見して買ってしまったが、やや中途半端な本であると思う。中途半端と言うより、すごく読者を限定する、と言った方が正確かもしれないが、いずれにせよ2,500円という値段もあって、珍しく買ったことを少し後悔する本になった(少しだが)。

ブロックチェーンは何がすごいのか

ブロックチェーンの役割については色々言われているし、この本では可用性、改竄性、ビザンチン障害耐性、追跡可能性を上げているし、それはその通りなのだが、いまいちそのインパクトを図りにくい。

初心者向けにブロックチェーンの第一義的な意味をわかりやすく言えば、デジタルデータの高い耐改竄性をローコストに実現する、これではないだろうか?

これだけ聞くと大したことがないような気がするが、例えば最も応用が進んでいるであろう金融では、銀行の決済システムはこの「デジタルデータの高い耐改竄性」ために多額の設備投資を行っている。

それ以外にも電気ガス水道ネットクレジットカードなどおよそ決済が発生するありとあらゆる取引は、改竄は絶対に避けなければならない。ブロックチェーンはそのコストを圧倒的に低減することができる。

ビジネスへの応用機会、デジタルデータの真実性の担保

これだけでも十分にビジネスへの応用機会があるように感じられるが(それをこの本から知りたかったのだが、それに応えてくれる本ではなかった)、応用範囲は決済機能に止まらない。

改竄されないデジタルデータ、それはつまりデジタルデータの真実性が担保される、デジタルデータの「本人確認」が可能になるということを意味する。これは単に証券口座を開くのに免許証を撮影してアップするような手間の軽減だけでなく、デジタルツインを実現する上での決定的に重要になってくるだろう。

何らかの設備の全履歴を偽りなく正確に記録し、デジタルツインで全データを情報化し、そこに書き換え不可能なIDを与えることができれば、信頼性を担保するためのあらゆる「取引コスト」を大幅に削減できる。簡単に言えば、小売店は不要になる

MOBIという団体は、MaaS向けにブロックチェーンを使ったサービスを提供しているが、車載電池CO2の排出履歴は、このMOBIの技術が使われるという。素材から加工、製造、輸送、運用、廃棄とライフサイクルを通したCO2の排出履歴管理。こんなものブロックチェーンがなければほとんど不可能ではないだろうか。そしてそれが可能なのもの、データの真実性が担保されている前提なのだ(それがローコストに実現可能)。

NFTについて

少し前に波多野結衣のNFTが売れたというニュースがあったが、私も最初にNFTを知ったのはこのニュースだった。当初「コピー不可能なデジタル作品なのか?」と思ったが、そうではない。NFTであってもコピーは可能なのだ。

最初コピー可能ということを聞いて、何の価値があるのか理解できなかったが、このデータの真実性の証明の大きさが今は少し理解できる。そのインパクトの大きさの理解が、ビジネスへの応用を模索するキーのように思える。

1つだけよかった

本書は、副題にある「新規事業の創出とガバナンス・関連制度」の後者「ガバナンス・関連制度」については詳しいしこれから実務に当たろうという人には役に立つかもしれないが、前者の「新規事業の創出」に期待して読むと落胆することになる。

1点、ブロックチェーンはデータの信頼性を担保できるが、そのデータ自体が正しいかを担保することはできない。だから、電気やガス、自動車の走行メーターで使おうとすれば、計測する機器自体でその計測データ自体が間違いがないようなセンサーを設置する必要がある。ほとんどこの1点だけが、「そうだよな」と確認できてよかった(そうだろ?と思っていても、こうやって裏付けが取れるのはいい)。

あ、あと職務定義書の例も少しよかった。ブロックチェーンの業界が何を求めているのかイメージし易い。

 

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