桐野夏生『残虐記』 男と少女の淫靡な共犯関係。本当に「弱者」なのは誰か

読書

みなさん、こんにちは。

今日は、桐野夏生さんの『残虐記』をご紹介したいと思います。

このチャンネルでは、主に本を読み終わった方を想定して内容を紹介していくので、ネタバレを望まない方はブラウザバックをお願いいたします。それでは始めましょう。

自分は少女誘拐監禁事件の被害者だったという驚くべき手記を残して、作家が消えた。黒く汚れた男の爪、饐えた臭い、含んだ水の鉄錆の味。性と暴力の気配が満ちる密室で、少女が夜毎に育てた毒の夢と男の欲望が交錯する。

これは、文庫本の後ろに書かれている紹介文の一部です。主人公の少女は10歳の時に誘拐され、1年1か月もの間、男に監禁されます。その間、大人の男の剥き出しの欲望をぶつけられ、解放後も世間の好奇の目という暴力に晒され続けることになります。

しかし、この少女と男との関係は犯罪の被害者と加害者という単純な対立関係ではなく、むしろ淫靡な共犯関係に近いものがあったということが、この手記を通して語られます。1年1か月に及ぶ監禁生活の中で、10歳の少女と25歳の今でいう境界知能に近い男が恋愛関係に陥っていたという、世間が全く想像しなかった真実が語られることになります。

小説の中でも、その可能性を見抜き、追求しようとする検事が出てくるのですが、犯人と特殊な関係にあったことを隠そうとする主人公とのやりとりは非常にスリリングなものがありました。

少女の世界を誘拐・監禁という形で暴力的に支配する男。そして、少女は男の欲望自体を支配することで、間接的に世界を手に入れ愉悦に浸る。この構造は、10歳の少女と25歳の男ということを考慮するとショッキングなものかも知れませんが、一般的にはそう珍しくない構造ではないかと思いました。どんなに社会的・経済的に成功した強者男性であっても、女性から自由になることは、かなりの困難を伴うのではないでしょうか。

桐野さんの作品の登場人物は、男も女も非常に個性が強く、男は頭がキレ、下品で、野卑た欲望を剥き出しにしてきます。その加害性はもちろんあるのですが、同時に女も男に負けず劣らず強かで、ずる賢く、自分勝手で美しいんですよね。

これは私が男であるからかも知れませんが、差し引き、女性を欲望せざるを得ない男性の弱さを桐野さんの作品から感じることが多いです。残虐記でも最も弱者であるのは、ある意味、誘拐犯であり境界知能であり、後にその誘拐すら利用されたものであったと判明する、安倍川健二と言えるのではないでしょうか。

本日は以上です。また次の読書でお会いしましょう。

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