今年読んだ本まとめ

読書

今年読んだ本、まとめ。「暁の宇品」や「一下級将校の見た帝国陸軍」もよかったが、ベストは、「死の貝」。現代の公衆衛生が過去の膨大な犠牲と研究に支えられていることを思い知った。

1 東京都同情塔

主人公は、消毒されAIで文章を綴る美少年より、Fワードを連発する体臭のきついアメリカ人に心を開く。作者はこのアメリカ人のように、おキレイな綺麗事の価値観に中指を突き立てたかったに違いない。

2 羆嵐

3 人に頼む技術

現代の業務は細分化されており、他人との連携(助け)が重要。しかし人は助けを求めることに非常にストレスを感じる。助けが必要かは外から見ると判断が付かない。だから積極的に求めていく必要がある。頼むうえで重要なのは内発的動機の刺激。相手に強いられていると感じさせてはいけない。だから謝るのもよくない。などなど、気づきはあるが、あまり実践できてない。

4 ビヨンド・リスク

5 デジタル・ゴールド

初期のクリプト(というと、ビットコイナーには怒られそうだが)の思想や文化的背景が感じられる。アングラで無政府主義的。そこまでパンクな生き方に賛成できる人は少数だろうが、マスアダプションは多様性の包摂とも言える。

6 Web3の未解決問題

単なる現状解説の章もあったが、根本的なところの議論もある。松尾先生と楠さんのパートは読み応えある。

7 一下級将校の見た帝国陸軍

組織自体の日常的必然で無自覚に「自転」していた。もうすぐ戦後80年な訳だが、現代の会社組織は帝国陸軍と驚く程変わっていない。「異なる組織を見て自身を相対化する」どころではない。「同じことやってんな」という印象を抱かざるを得ない。これは日本の宿痾だろうか?マッカーサーは日本を12歳の子供に例えたが、今の日本人は何歳だろうか…

8 人生のレールを外れる衝動の見つけ方

要領の良さを捨て、器用な立ち回りを捨て、合理的な選択を捨て、自分という存在を強烈にドライブする「衝動」に取り憑かれたいと思う人は少なくないはず。そういったものの見つけ方を期待したわけだが、結論としては「自己の中に深く潜りつつ、外部に心を開き、衝動の欠片を感受する」というフツーのものだった。魔法はないのだろう。

9 岩壁よおはよう

10 いちばん優しいブロックチェーンの教本

この手の本、何回読んでもわからない。

11 BUTTER

日本人女性の出生率の低さは、女性が歴史的に最もジェンダーロールから解放されていることを示しているが、それは新たな地獄を生み出してもいる。BUTTERでは3人の女性が3つの地獄=家庭に入るという伝統的価値観、バリキャリによる経済的自立、男を支配する女性性の魅力という地獄が描かれる。バターは、この3つから自由になろうとする個人的欲望の象徴として位置付けられる。痩せている必要はない。綺麗である必要もない。誰かのためでなく自分のための幸福。

12 ユニクロ

怒号の飛び交う会議、半分が売れ残る、全くいうことを聞かない海外現地従業員、聞いているだけで胃が痛いが「ごっこ」ではないことに羨ましさも感じる。あと、安定成長に満足できないパワーはどこから出てくるのか。

13 シニアになってひとり旅

14 燕は戻ってこない

「私はもしかしたらモノになろうとして失敗する自分や彼女たちを見たかったのかもしれない。モノ化されようとするとき、彼女たちは最もモノから遠い存在になる。生々しく制御不能で、強かでずる賢く、欠陥だらけで、美しい。」

15 死の貝 日本住血吸虫症との戦い

現代の公衆衛生が過去の膨大な犠牲と研究に支えられていることを思い知る。今年のベスト。

16 イーロン・ショック

イーロンと仕事をする、というのは一生の経験だろう。毎週やることを報告し、次週に結果を報告する。すべてトラッキングされ、提出していない人には追及が入るらしい。意外なマイクロマネジメントだが、その方が良いかもしれないと感じたり。あと本筋ではないが、この手の本にありがちな著者の武勇伝がほぼ皆無。逆に辛かった経験や失敗談、楽したい欲望を晒していて「こんな人でもそうなんだ」と共感してしまう。それは低位に安定という意味ではなく自分も、と前を向ける気がする。

17 バリ山行

主人公にとっての「本物」は山ではなく会社であり生活。しかし本当にそうだろうか?というのがテーマ。整備された登山道(会社)ではなく、道なき道の藪漕ぎこそ「本物」。だから主人公は二度とやらないと思ったバリ山行を続ける。まぁ分かるけど佳作って感じ。芥川賞も小粒だね。

18 春にして君を離れ

実家に帰り夫を迎える直前まで彼女は逡巡する。砂漠と太陽が照らす真実に向き合い赦しを乞うのか、これまでと同じように独善的な自分の世界に閉じこもるのか。彼女は後者を選ぶ。幸福は嘘と秘密でできているのかも知れない。しかしこのラストか…

19 砂糖の世界史

この人の頭にはどれだけの知識が蓄積されているのか空恐ろしくなる。この本の内容は氷山の一角で、その裏に執筆過程で削ぎ落とした膨大な情報の塊がある。私に直接関係するものではないが、少し世界を立体的に見られるようになった気がする。ほとんど忘れてしまったが。

20 猫を救うのは誰か ペットビジネスの「奴隷」たち

基本的に市場原理は素晴らしいものだが、ペットの問題については外部不経済が大き過ぎる印象を受ける。数値規制は導入されたが実効性に課題を残すのは想像に難くない。自治体の労力に限界があり全数を適切に検査するなど不可能だろう。構造的に解決できないものか。

21 道頓堀川(再読)

もう何回読んだか分からない。当初は、ビリヤードの勝敗の行方を切り口にして書き始めたが、この小説が運命に抗おうとする物語なのだと気づいた時、ビリヤードの勝敗は大した問題ではないのだと気づいた。結果ではなく、姿勢の問題だから。

22 暁の宇品

宇品(うじな)という地名も聞いたことがなかったが、アメリカが原爆の投下地に広島を選んだ理由の1つが陸軍の海上輸送基地があったかららしい(海軍の呉ではない)。事実、日清日露、太平洋戦争と多くの兵士が宇品から戦地に向かった。日本軍のロジが破綻していたというのは有名だが、現場は結果を出そうと奮闘した。

23 官僚たちの夏

読むのに時間がかかった。これを読んで官僚を目指そうという高校生の気持ちも分からなくはないが、自分たち(だけ)が日本経済を舵取りしなければ、といった勘違い感が強すぎる。アメリカでは一流の人材は民間に行くらしい。昨今の官僚離れは単に労働環境だけの問題ではない。もはや主役ではないのだ。

24 ギヴァー 記憶を注ぐ者

銃夢で、生きた馬のメリーゴーランドを思い出す。ある馬が手綱を引き千切って逃げ出すが、傷つき死んでしまう。「愚かな馬だ。メリーゴーラウンドの上を回っていれば死なずにすんだものを。」。そう言うノヴァ教授にケイオスは応える。「僕はそうは思わない。この馬は最後の数歩を自分の意思で歩いたのだ。」。良くも悪くも児童書。

25 ミラクルクリーク

幸福は秘密と嘘で構成されているのであって、真実に意味があるのだろうか?と感じるなど。障害のある子の親の想い。移民の貧困。

26 一年前の猫

平坦な日常が奇妙に彩られていて羨ましい。どうすればこのような感性を得られるのか?文章も簡潔だが読ませる。こんな文章書けたらいいのに。

27 見ることの塩

28 エクスタシー(再読)

昔から好きな作品だが、改めて読んでみてようやく物語全体を構造化し、テーマ性も意識できるようになった。

29 団地のふたり

ドラマを見たときは、ノエチとなっちゃんは、日常の豊さに気づくふりをすることで、非日常の可能性と終わりの悲しみから逃げていると感じた。小説は押し付けがましさがなくドラマより好感。

30 経験学歴不問の職場で働いてみた

令和版、求人の向こうの知らない世界。ビデオボックスでオナホを使う人は、使わない人に比べて部屋を綺麗に使う。ピンサロ嬢は目を伏せてツムツムばかりしている。肉体労働者の仕事中の話は9割がパチスロなど、妙なリアリティとインサイトがある。作業系は仕事としてやってみたい気がしていたが、作業だけしていればいいのではない。人間関係人間関係。。。

31 近畿地方のある場所について

本屋でたまたま手にとった。ネット上のアダルトサイトへの奇妙な投稿から始まる話が、こちらも妙なリアリティ。読んでいて素直に「怖い」と感じた珍しい体験だった。本を読んで感情を動かされること自体が少ないので貴重。

32 家が好きな人

休日は、「何かしなければ」、「充実して過ごさなければ」という変なプレッシャーがある。中途半端な向上心は大抵挫折して、無意味な罪悪感を覚えて終わることになるのだが、この本は家にいていいのだ。どこにも行く必要はない。それでいい。そう優しく肯定してくれる。それは、無根拠かも知れないし、必死で勉強している人もいるだろうが、それでも。

33 食事の戦略

魔法はない、って感じ。嫌々忘年会の幹事をしている状態から脱却できれば、と思ったが、積極的に人脈を形成していきたいと考えられない。Tipsは役に立つが良くも悪くも王道の正攻法で、「やっぱりそれやらなきゃダメ?」という感じ。飲み放題の店は酒の持ち込みOKは意外だった。話題作りになりそう。

 

 

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