駒崎さんのことは何となく知っていたが、職場の同僚に言われて読んでみた。
結論から言うと素晴らしい本だった。
滲み出る経営者の孤独と苦悩が隠しようもない
NPOとかソーシャルビジネスたかいった枠を超えた、超濃厚なビジネス書・起業の教科書だった。バズワードの尻馬に乗っかって、ポンポン出てはすぐ消える軽薄なビジネス書など及も付かない、滲み出る経営者の孤独と苦悩を隠しようもないが、それでいておじいちゃんの昔話のように退屈ではなく、苦労自慢でも全くない。
下記のように大企業と起業家との間には超えられない壁がある。よく「経営者マインドを持って欲しい」などと言うが、そんなのは自分で起業したことのない雇われ経営者の都合の良い妄想&責任転嫁だ。この本を読むとこの「超えられない壁」の高さと固さを思い知る。
大企業>>起業家
という発想が見え隠れするんですよね。起業家>超えられない壁>大企業のサラリーマン
だと思うんですが。
大企業のお偉いさんが唯一できることは、金だけ出して口出さないこと。 https://t.co/I9vGeGjPze
— 加納裕三 ⚡️(Yuzo Kano) (@YuzoKano) November 25, 2021
社会課題のイシュー化と、タッチポイントを増やすマネタイズ
ソーシャルビジネスが通常の企業のビジネスと異なるのは、サービスの受益者から直接金銭を受け取ることが難しい点がある。例えば、ホームレスには支払い能力がないからだ。だから、様々な方法でマネタイズを模索する訳だが、その一つが寄付である。
寄付というと街頭に立ったり頭を下げてお願いするイメージだが、「寄付マーケティング」と言う言葉があるくらい、通常のビジネスと同等かそれ以上に戦略性が必要だ。具体的には自分たちの団体ではなく、取り組む社会課題自体を広報する。何か新しいことを始める、と言うインパクトが必要。寄付を受け付けるにはUXが重要。寄付しても貰って終わりではなく、その後も情報を発信し関係性を継続する。
例えば、最後の関係性の継続などは、最近よく言われるデザイン思考そのものだろう。モノを売って終わりではない。使ってもらって、SNSに投稿してもらって、廃棄する。もっと言えば、クラウドファンディングなどで開発段階からユーザーとのタッチポイントを増やし、関係性を構築することに腐心している。2016年当時、私はUXと言う単語すら知らなかったかも知れない。
プレスの方法も非常に具体的で、有力な地方新聞への記者へのアプローチなど、サラリーマンであればめんどくさいと感じる方法を採っている。
あなたは、このサービスを友人に勧めますか?
サービス改善のためのアンケートもシビアだ。普通は、「今回の講演はどうでしたか?」と言う問いで、よかった、まあまあよかった、普通、あまりよくなかった、よくなかった。くらいの5段階くらいだろう。しかし、駒崎さんが勧めるのは「あなたはこのサービスを友人に勧めますか?」と問えと言うのだ(ネット・プロモーター・スコアと言う、ベインが開発した手法らしい。)。
これはつらい。
他人に勧める、特に友人に勧めると言う行為は、結構ハードルが高いだろう。ちょっと美味しいくらいのレストランはあるが、じゃあそれを友人に勧めるか?と言われると、そこまででもない、と言う店が大半なのと同じだ。
駒崎さんはこれを社内の満足度調査にも使用している。
実施してしばらくの間、フローレンスでも結果は目を覆いたくなるようなものだった。給料や仕事のやり方など、不満が出るわ出るわ。不覚にも僕自身は、創業当初のノリのまま「みんな一丸となって働いている」と思い込んでいたが、みんなの本音はこうだっったのか…と思い知らされた。
腹が立つやら、つらいやら。「何を甘えたことを言ってるんだ。文句があるなら辞めてもらって結構」と、喉まで出かかりそうだった。(中略)経営者にとっては心理的にかなりつらい作業。できればやりたくないのが本音だろう。ちなみに僕は今でもやる度に不愉快になる。
でもやる。のである。
友人に勧められる本
それ以外にも、切れば血が出る生身のエピソードが、これでもかと詰め込まれており、この人が起業からどのような苦労をしてきたのかがよく分かる。
SNSの写真は優しそうな笑顔だが、それはこの苦労に裏打ちされているのだろう。
大抵の本は売ってしまうが、この本は売らない。それこそ知人に勧められる本である。
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