[本の小並感 166]つながりの創り方 サービス化はみんなをハッピーにするチートスキルではない。競争は一層過激になりゼロか1かの総力戦をもたらす(かも知れない)

読書

サービス化成功に必要な条件とは

モノからコトへ、プロダクトからサービスへ。そう言われて久しい訳だが、製造業にとってそれは料金メニューの追加などというインスタントなレベルではなく、ビジネスモデルの転換、というこの上なく困難な道を意味する。

そしても最も重要なのは、それ、つまり自社のビジネスモデルを転換することが、良い選択肢なのか、というコトだ。流行ってるから、くらいの認識では失敗は目に見えている。なので、サービス化が向いている業界はどこなのか、サービス化の成功に必要な条件は何なのか、それを探るためにこの本を読んだ。珍しく目的がある。

とりあえず4要件

整理し切れていないが、サービス化が可能、有利なのは下記の条件が当てはまる場合である気がする。この本では、主に3の重要性、そしてそれを実現するための手法が紹介されているが、比重としては4や1がまず重要だろう。

  1. 限界費用がない(or低い)
  2. 稼働率が低い
  3. 関係性が継続する
  4. そして何より、ユーザーの利便性が向上する

1. 限界費用がない(or低い)

これはソフトである。ソフトはユーザー数の増加に応じて限界費用が掛からないので、ユーザー数の拡大がそのまま利益に直結する。Adobeは、それまで2600ドルほどしていたパッケージ版の売り切りをやめ、個人50ドル・法人70ドルのサブスクモデルに移行する。限界費用が少なくて済むため、料金・頻度、期間などの課金システムがユーザーニーズを踏まえたものにカスタマイズしやすい。また、初期導入費用が高く、ソフトのアップデートが繰り返されるため、3にも関係する。

だから、この本では限界費用が発生するハードのサービス化には否定的だ(よくてもリースまでで、サブスクまでは難しいという)。ハードの保管コスト、メンテナンスコスト、取り替えの物流コストなどがそれぞれの事案ごとに発生してしまう。

2. 稼働率が低い

これはクルマである。限界費用のかかるハードであっても、稼働率が低い(確か時間で4 %とか)とネットによる大規模なマッチングサービスが、ユーザーの利便性向上を実現する、可能性がある。ユーザーは車を所有したのではない。移動したいのだ。

こういう本質的なニーズのことを、この本ではジョブと読んでいるが、ユーザーが望むタイミングでそれを提供できるなら、所有する必要はない。レンタルでもリースでもサブスクでもいいのだ。

3. 関係性が継続する

この本が最も強調しているのはこの点である。プロダクトの販売というビジネスモデルは、「売ったら終わり」が基本であり、その後のアフターフォローは、「おまけ・あればベター・余計なコスト」などと捉えがちだ。しかし、サービス化においては、課金のタイミングをライフタイム全般に継続的に設定しなければならない。

既存のサブスク化が失敗するのは、この点に力を割いていないからだ、という。この点は、プリンターの様なBtoBで継続的にメンテナンスが必要になる様な機器では逆にプラスに働くかも知れない。今でもリースが主流だろう。

4. そして何より、ユーザーの利便性が向上する

これは当たり前の前提だが、意外に難しい。サービス化したい、サブスク化したい、長期にわたって安定的に収益を確保したい、というのはあくまでもメーカー側の論理であり、それによってユーザーの利便性が向上しない限りは、うまく行きようもない。

そのためには、初期費用を限りなく低く抑える、またはゼロにする必要があるだろう。これは、プロダクの販売というビジネスモデルの製造業には極めて難しい転換になる。今まで販売していた製品の価格をゼロにし、月額・年額の課金モデル長期にわたって回収しなければならない。

サービス化が生むもの

プロダクトのサービス化を目指す企業は、だから下記が必要だ。

  • 結果的に製品の導入数ではなくユーザー数を競うことになる。他者を圧倒する様な規模で導入を進めなければ、サービス課金モデルで収益をあげることはできない(短期のキャッシュフローも悪化する)。プロダクトベースの競合他社とは、競争が一層過激化するだろう。
  • 解約しないための工夫。スマホゲーがいい例で、「掴んで離さないアプデの工夫」には唸るものがある。さらにハードは保管や設置・撤去、物流などのコストが発生する。だから、ソフト以上に解約させないサービスの工夫が必要だろう。例えば、IoTベースのメンテナンスの高付加価値化などか。

生態系を破壊する、ゼロか1かの総力戦

サービス化は、特にプロダクトのサービス化は、みんながハッピーになれるチートスキルではない。簡単な選択肢ではないが、無視はできない。うまく行く企業があれば、それは既存の業界の生態系を破壊する、ゼロか1かの総力戦をもたらすかも知れない。しかし、それもうまく行けば、の話だが。

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