[本の小並感 174]同調圧力の正体 一部で進む先祖返りとしての「村化」は、世界との不整合に対する断末魔か

読書

空気や同調圧力については、これまでも何冊か読んできた。

成毛眞が帯で「現代版『空気の研究』と言えるのではないか」と書いているが、それこそ山本七平の時代から言われてきたことを、現代に当てはめたようは内容だ。だから、内容的にほとんど違和感はないが、逆に新しいこともない。

「あなたのジョブ・デスクリプションは?」 個人の未分化が同調圧力を助長する

閉鎖的・同質的な集団だからと言って同調圧力が高くなるとは限らないと言う。根拠とするのはフランスだ。フランスの地方公務員は転職が少なく長期雇用が多いが、それでも例えば「有給が取りにくい」と言った空気はないと言う。

これは、一人ひとりの仕事の分担が明確になっているからだと言う。自分の仕事をきっちりこなしていれば、周りの目を気にする必要はないのである。

私は一時期英会話クラスに通っていたが、「あなたのジョブ・デスクリプションは何?」と言う質問には困った。最初はジョブ・デスクリプションが何なのか分からなかったが、フランスの例でいう「一人ひとりの仕事の分担」で、そんなもの「ない」ことが当たり前だったのだ。

個々人の業務範囲が不明確という企業文化は、コロナ前からリモートワークなどと相容れないという指摘があったが、それが現在顕在化している。出社が必要な部署と、そうでない部署との不公平感をどう調整するのか経営者は頭を悩ましているという。

西洋における「個人」の確立の歴史は古く、近代化と世間では、教会による告解がその端緒だったとしている(と思う)。だから、業務範囲が明確になれば良いかという、そういうわけでもないだろうが、いずれにせよ本書が指摘するように、閉鎖性・同質性・個人の未分化という三つの要素が、日本独特の同調圧力の高さに寄与しているのは間違い無いように思う。

抗い難い村社会のメリット

しかし、なぜこのような村社会が形成されているかというと、上記の3つの要素ももちろんあろうが、最大の原因は「その方が効率的で快適だから」だろう。

コロナ対策を見て戦前の日本もこうやって太平洋戦争に突入していったのか、という感想を持った人も多いだろうが(2020年の5月・6月頃にそういうツイートが多かった)、欧米よりも遥かに緩い自粛で、遥かに少ない死者数を達成できるのは、この同調圧力が大きく寄与したことだろう。

本書では同調圧力を打破する対策として意図的に異分子を投入する、いわゆるダイバーシティ経営のようなものが提案されているが、そのような異分子を経営に生かす形で活用するのは、極めて高度な管理が必要だ。「俺は2倍成果を上げているのだから、給料も倍よこせ」そういう要求にウンと言える企業は多くないだろう。「めんどくさい」のだ。

軋みを上げる、共同体のロジックとデジタル化する世界のロジック

では、なぜこのようなメリットがある同調圧力が問題になっているかというと、一言で言えば「メリットよりもデメリットの方が大きくなった」訳だが、具体的にあげると次のような点だ。

  • 責任意識・当事者意識の希薄化(面従腹背、やらされ感)
  • イノベーションの阻害
  • 硬直化した労働市場
  • 女性の人的価値の低下
  • 減点主義

これらの要素は相互に補完的で、お互いがお互いを前提として最適化されているから、その一部だけを変えてしまうと返って業務の効率を落としてしまう。だから、これらは一気呵成に行う必要があるが、それは素晴らしく困難な道だろう。

西村圭太がDXの思考法で「高度成長期の成長を支えたカイシャや、日本産業の持っていた基本的な原理やロジックと、現在のグローバル経済を突き動かしているロジック、デジタル化のロジックとが合わなくなってしまっている。」としているように、根本的な話なのだ。

現在、企業やSNSなどの一部で逆に「村化」が強まっているのは、この不整合に対する断末魔のように思える。

この本は、全体論に異論はないが、新しい発見もない。山本七平は空気の打破を神殺しに例えたが、本書が提示する対策はいかにもナイーブ過ぎるように思える。

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