投資需要を喚起する攻めの規制・標準化は可能か 古典で読み解く現代経済(本の小並感 180)

読書

いつか経済学を体系的に把握しておきたいと思っているが、この本は経済学の古典が現在の経済事象に当てはめるとどうか、という観点なので、それらの古典の内容を解説するような本ではない。だから、これを読んだから古典の要点が分かるというものではないが、これはこれで現在の疑問に答えのヒントがあるように感じる。

どう投資需要を喚起するのか

自然利子率に比べて現実の金利が高い(or低い)場合、新古典派的に言えば市場に不均衡がある訳で、それは市場メカニズムを通して、つまり投資需要が減って金利が下がることで調整される。しかし、自然利子率がマイナスであっても、名目金利は0以下にするこはできないため、デフレ環境下にあっては、実質金利(=名目金利+予想デフレ率)はプラスになってしまい、自然利子率よりも高い金利水準に留まってしまう。

この問題について、ケインズは2つの方法を提案しており、一つはマイナス金利であり、もう一つは財政政策である。マイナス金利は政治的にほぼ不可能だが、日銀が非伝統的な金融政策として行っているETFやREITの購入は、実質的な金利の引き下げを目指す狙いがある(副作用も多い。)。なお、ばらまき財政政策だけがお得意の方法として幅を利かせているが、ケインズは財政政策を推していた訳ではないのようだ。

しかし、ケインズ自身も「最終的に重要なのは「心理的要因」」としているという。ケインズはアニマル・スピリッツという全く科学的でない単語で説明しているが、フランク・ナイトも同様であったらしい。

イノベーションが起こらないと、新古典派経済学がいうように利益がどんどんゼロに近づいていくからです。(中略)「平均リターンはマイナスかもしれないが、俺だけは儲かる」と錯覚する人が起業家なのです。彼らは社会の数%しかいないが、そういうギャンブラーが結果的にはイノベーションを生み出して社会を進歩させる。

攻めの規制・標準化

だから、政府の役割で重要なのは、(成長分野に重点的に投資するなどのターゲティング戦略ではなく)起業家がリスクを取りやすい環境を整備することである。そして、この環境整備は単に規制緩和だけではないように思う。

新しい技術など規制がなく、事業者がリスクを取ろうにも取れない場合、市場が立ち上がっていない段階で、先にルールを整備し、競争領域と協調領域を区別し、ベーシックな市場環境としての標準化も重要だろう。これは各社の利害が絡み困難極まるのが実態で、暗号資産業界が業界団体を乱立させて足並みが揃わないことにも見られるが、しかし規制側も守りだけではないのだ。

分かりにくいハイエクの業績

主にケインズについての章で、ハイエクやフリードマンについても書こうとしたが書けなかった。特にハイエクはすごく重要な気もするが、新古典派対ケイジアンのような分かり易い対立軸がなく、業績が分かりにくい。どこかで整理したい。

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