モキュメンタリーという手法に若い才能の萌芽と表現の可能性を感じるなど(濁唾濔蓏(ダクダデイラ) 餅屋 䖸)

読書

濁唾濔蓏(ダクダデイラ)
餅屋 䖸

ネットの怪文書を集めたというオムニバス形式のホラー小説。架空の物語を実際の記録のように見せる表現手法のことを、「擬似(mock)」と「ドキュメンタリー(documentary)」を合わせてモキュメンタリーと呼ぶのだそうですが、これもそれに当たります。

一見無関係な短編の事件が続くのですが、少しずつ「あれ、この事象前も出てこなかったっけ?」とか、「あのエピソードとこのエピソードとつながってる?」という感じで徐々に共通点が表れてきて、最終的に1つの事象に一気に収斂していきます。

SNSや掲示板、動画へのコメントの再現など、ネット上の「あるあるこういうの」という妙なリアイティがあり『近畿地方のある場所について』を思い出しました。ネットの書き込みという形が多いので、文学的表現のようなものはないのですが、背筋がゾクッとすることが何度もあり、文章の企画力・構成力で人を怖がらせるのは素直に大したものだと思います。ネットには考察記事・解説動画も多くあり、確かにそうしたくなる魅力を感じさせます。

一方で、過度にモヤモヤさせないために、ある程度正体が分かるようにしているのでしょうが、やや興醒めでした。スプラッターな描写も少々チープで、この辺りは文章の表現力が求められるところかもしれません。背筋の『近畿地方・・・』でも同じような印象を覚えた記憶がありますが、モキュメンタリーという手法に、従来からの小説家としての表現力が加わると、もっと面白い作品が出てくるかもしれません。

(例えばですが、スティーブン・キングの作品は、映画だと単に怖いで終わってしまうことも多いのですが、原作小説は泣けるんですよね。『ペット・セメタリー』などは、一般にはホラー小説とカテゴリーされるのですが、愛別離苦の悲しい愛の物語と言った方が正確だと思います。そういった、エピソードを挟んでも良かったかもしれないですね。)

この本は、ある読書コミュニティで「高校生の娘に欲しいと言われたが、与えてよいか悩んでいる」という親御さんがいて、興味を持って読んでみたのですが、私は全然ありだと思いました。AVの撮影時に怪異が起こるというプロットはあるのですが、単語止まりで具体的な性描写はほとんどありません。強いて言えば、近親相関願望や小児性愛者の集まるネットの掲示板を再現したエピソードがあり、そこがややセンシティブかなと思いますが、高校生くらいだと大人になってから読むよりもずっと新鮮な読書体験になると思います。

モキュメンタリーという手法は、意外に歴史が古く、1938年にオーソン・ウェルズが手がけたアメリカのラジオドラマ『宇宙戦争』があり、同作品では架空のニュース中継という手法を用いているそうです。また、1999年に発表された『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』は、低予算映画ながら興行収入の面で大きな成功を収めています。

しかし、その後のSNS、動画、掲示板といったネットメディアの発達に合わせて、モキュメンタリーという手法も同時に進化しているように感じます。この小説は、カクヨムという小説投稿サイトに掲載されたものを書籍として再構成したものなのですが、これもネット時代の手法です。

雨穴の『変な家』や背筋の『近畿地方のある場所について』もそんなネット時代のモキュメンタリーと言えると思います。こういうとことろから、モキュメンタリーという表現手法を土台に、新しい才能が表れて、書籍というメディアに触れてくれる人が増えるというのは、すごく嬉しいですね。

本日は以上です。また次の読書でお会いしましょう。

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