r > gの世界で、「労働」は貧しく悲しい行為なのか

読書

1,057連勤

r > gの世界で、労働は貧しく悲しい行為なのでしょうか。

この本は表題のとおり、コンビニオーナーのドタバタ日記です。1,057連勤という衝撃の数字から始まるのですが、清掃、ゴミ出し、発注、仕出し、レジ、返品、シフト調整、精算などなどの日常業務に加えて、万引きや反社などのクソ客対応、SV・エリアマネージャーなどのコンビニ会社対応、さらにクリスマスなどのイベントやキャンペーン対応が乗ってきます。

その結果、1,057連勤という衝撃的な数字を叩き出すことになります。一応休暇もあるのですが、休暇中もシフト対応・トラブル対応で常に電話に怯える日々です。

どのくらい儲かっているのか

そうまでして、どのくらい儲かっているのか、なのですが、下記のような感じです。

  • 1期目:750,000円/月(試算)
  • 2期目:900,000円/月
  • 3期目:???(1期目より少ない)

1期10年の契約で1期目は試算です。3期目は具体的な数字はなく1期目より悪いと説明されています。2期目は数字が公表されています。

ぱっと見、悪くないなと感じる方もおられるかもしれませんが、夫婦で経営されているので、この数字は2人分です。また店としての利益なので、個人の手取りまでには、ここから所得税・住民税・年金保険料・健康保険料・介護保険料などが差し引かれることになります。

ちなみに、2期目を2人で割った月額面450,000円の給与というのは、サラリーマンで言うと額面年収5,400,000円、手取りだと月350,000円、年4,200,000円くらいという計算になるようです。ネット手取り計算のサイトを利用したので、前提条件などでかなり異なる結果になるかもしれませんが、目安としてはそのくらいです。

そう考えると、決して悪くないかもしれませんが、出店費用や店舗の改装費用などは自分たちで拠出してリスクテイクしているわけです。また、先ほどのように自分の時間と言うのもほとんど確保できないので、それに見合ったリワードかというと決してそうは言いにくいのではないでしょうか。

(参考)

  • 全国のコンビニ店数:57,544店
  • コンビニオーナーの平均業務日数:6.3日/週
  • コンビニオーナーの年間平均休暇日数:21.3日
  • 本部に支払うロイヤリティ
    • 1FC(=土地店舗自前):36%〜49%
    • 2FC(=土地店舗借り):65%〜70%
  • コンビニオーナー平均年齢:53.2歳
  • 1店舗あたりの1日平均売上
    • セブン:655,000円
    • ローソン:436,000円
    • ファミマ:489,000円
  • 1店舗あたりの1日廃棄ロス(全店舗)
    • セブン:14.7 kg(5.8万t)
    • ローソン:15.2 kg(4.6万t)
    • ファミマ:15.9 kg(4万t)

資本戦略

サラリーマンのとるべき資本戦略という意味では、労働収入であるサラリーマンや自営業者から、オーナー社長や投資家を目指す、というものがあります。これは、金持ち父さん・貧乏父さんで有名なロバート・キヨサキが提唱しているESBIという考え方で、労働収入が主な左側から、資本収入が主な右側を目指せ、ということです。

r > g、つまり資本収益率が労働収益率を上回るという世界で、gからrを目指すとも言い換えられます。例えば、NISAに積み立てるという行為も、人的資本gで得た金銭を、金融資本rに移し替えている作業とも言えるわけです。

この考え方に乗っ取った時、コンビニオーナーというのは、自営業者に近いと言えると思います。引き続き左側の労働収入ですね。そして、自営業者は残余財産は全て自分のものにできるというメリットがあるわけですが、コンビニオーナーの場合は、コンビニ会社への支払いや契約などから、この部分を大幅に増やすことはできにくい構造になっています。それこそ、ドミナント戦略のような物ですね。あれは、個人の店舗よりも、コンビニ会社の利益を最大化する方式と言えると思います。

ですので、この視点に立った時も、コンビニオーナーという選択肢は決して正解とは言いにくいわけです。労働環境からも、収入面からも、凡人の資本戦略からも、あまりいい選択してはない、ということですね。

それでも羨ましいと感じた

それでも、私はこの本を読んで羨ましいと感じました。

例えば、地元在住の元バイトの子たちが、卒業後も常連客になってくれて、子ども連れで来店してくれる、ということもあるようです。東京では、コンビニ店員は外国人であることがほとんどかと思いますが、この方の店舗は地方都市の国道沿いという立地なので、高校生とかのバイトが多いんですね。そういう方が、卒業後も継続して通ってくれるわけです。30年経営されているので、地域の結節点的な役割を担っていると言ってもいいかもしれません。

巣立っていくバイト学生から「人と接することが苦手だったが、このバイトを通していろんな人と接することで、人間が好きになった」といって巣立っていく人もいるようです。そして、このことは著者も一致します。クソ客に理不尽な対応を迫られ続けた著者も同じように人が好きになったといいます。

社会学習の子どもたちへの対応は、日常の業務を続けながらになるので、終わった直後は「もう2度とやらない」と思うほど大変なわけですが、後日子どもたちから届いた感謝のお手紙をパートやバイトと回し読みしながら、お店の壁に貼って、来年度もやろうかなと考えを変えます。

そして、心から良かったことを書いて欲しいという出版側の要望について、この本を出せたことだと語っています。著者のお父さんは小さい頃に亡くなられたのですが、文学者を目指していました。また、お母さんも自殺されてしまうのですが、児童文学の作品集を出したいと望んでいました。その夢を、娘である自分がある意味叶えられたこと、それがコンビニオーナーをしていて良かったことだと、これ以上のことはないと結んでいます。

こう言ったエピソードを聞くと、コンビニオーナー悪くないな、と思ったりしました。

資本収益は労働収益より尊いのか?

正直、勤務面でも給与面でも、コンビニオーナーになりたいとは思いません。著者も、いいところはあげつつも「もう辞めたい」と思い続けているそうです。

宮崎駿の『シュナの旅』という作品の中で、厳しい環境の中でささやかな収穫に感謝し、朽ち果てるまで働いて死んでいく、貧しく悲しい農民たちが出てきます。そのような人々を救うために、主人公であるシュナは黄金の穀物を探す旅に出るお話です。

今の時代、なかなか「労働」の価値は顧みられないように感じます。先ほど述べた資本戦略のように、「金が金を生む」状態を目指す方が正解だということですね。

FIREのうち、FI、つまりFinancially independetすれば、RE、つまりRetier Earlyはしなくても、働けば良い、という意見も理解できます。ですが、FIした状態で、このコンビニオーナーのようなきつい仕事ができる人というのは、そう多くはないのではないでしょうか。FIできていないからこそ、きつい仕事ができる。そして、その先にしかいない幸せのようなものがあるかもしれません。この本は、個人的な体験記を超えて、「働くこと」の意味を再提案しているように感じました。

本日は以上です。また次の読書でお会いしましょう。

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