「サービス化」というバズワード
この本を読むと、バズワードとして飛び回るサービス化というものが、MaaSに限らず多くの分野でサービス化が収益に苦しんでいることが分かる。中小企業がサービス化を勧めるコンサルの「狩り場」になっているという指摘もある。
例えば、ダイキンが2018年1月に三井物産と共同で開始したAaaS(Air as a Service)は、定額の利用料金を支払えば高額な空調機器を購入する必要がない。ダイキンは稼働状況などのデータを収集し故障の予兆を検知、修理や点検の追加費用もかからない。下記のようにリースより安価に利用者に利便性を提供する。
一見いい様に見えるが、しかし、導入は空調環境が重要な病院を中心とした10数件に留まり、利益率も当初の目標に届いていないという。
小林氏は「営業担当は目先の数字を追いかけがち。マインドの転換が必要」という。彼らはすぐ大きな売り上げがたつ機器販売を優先してしまうからだ。営業担当の評価基準から見直さないとサブスクリプション(定額制)モデルへの転換は難しい。
これまでの事業構造をゼロに捨て切る
ダイキンの例以外にも、ファナックのPaaSやコマツのCaaS、ミシュランのTaaSなどが取り上げられているが、大抵が収益を上げておらず(よく言えば)先行投資のフェーズにあるという。
上記のダイキンの例の営業担当の評価というのはやや矮小されており、サービス化は、機器の販売という事業構造自体を根本的に転換する必要がある。収益構造だけをお手軽に真似ても上手くいかない。場合によっては、サブスクか買い切りかを選べる、という両論併記のメニューではなく、サブスク一本に絞り機器の売り切りはしない、というような措置も必要かも知れない。
これは、言葉では簡単だが、全社を上げた方向性の大転換であり、収益化という先が見えない中で実行することは生半なリーダーシップでは不可能だろう。これが、日本の製造業が置かれている状況なのだろうか。
データの販売でどうにかなるのか
MaaSで思い出すのは、モビリティ・エコノミクスだ。モヤモヤ感はあるが、それでもブロックチェーンという技術が可能にする未来への可能性を期待させる内容だった。しかし、この本でも既存のMaaSが収益化できず事業として成立できていないことを指摘している。
そして、その解決策としてデータの販売を上げている。常に動き続ける乗り物が収集し続ける自身や周囲の状況に関するデータをインフラ事業者などに販売する、というモデルである。これを「儲かりMaaS」と呼んでいた。
しかし、これが上手くいくかは分からない。そもそも限界費用の低いデジタル分野だからこそサブスクが機能するのであって、限界費用のかかるモノのサービス化はうまくいかないという指摘もある。
コンサルの「狩り場」か、製造業の宿命か
しかし、だからといって製造業がサービス化を無視できる訳ではないだろう(なんとなく)。
ある日系自動車メーカーが中国の滴滴に先行投資をどの様に回収するのかを問うたところ「そういう発想ならプラットフォームビジネスはやめた方がいい」と切って捨てられたという。
先の見えない中で、製造業からサービスのプラットフォーマーへ。金曜の夜に気が重い。
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