[本の小並感 163]サラ金の歴史 日本で自由主義は高嶺の花なのか(改正貸金業法の背景)

読書

SNSがマーケティングの最前線

最近twitter上で次の本を探すことが増えた。探す、というより、流れてきたツイートで面白そうなものをポチっておくだけだが、前のルワンダ中央銀行総裁日記もtwitter経由で、休日に本屋をぶらつく回数が明らかに減ってきた。数周回遅れでマーケティングの前線がSNSであることを実感する。

この本は戦前から現在までの約100年の消費者を対象とした金融システムの歴史をさらい、この時代における今後金融が果たしていく役割について概観している、と言っては少々言い過ぎで、主に前者、つまり歴史のおさらいなわけだ。これはこれで結構おもしろいく、現在のマイナス金利環境下では考えられないような事態が多い。ただテーマ性はやや弱いように思う。

1979年のレイクの広告。それまでサラリーマンが対象だった金融サービスを、主婦にまで拡大させた。

グラミン銀行との違い

発展途上国において望んでも金を借りられない貧困層に対する金融サービスは金融包摂(financial inclusion)と呼ばれ、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスのグラミン銀行も低所得者への小口金融サービスである。その金利は20 %であり日本の消費者金融と比べても十分高利貸しだが、かたやノーベル賞、かたや血も涙もない強欲な怪物である。

その違いについて、本書ではあまり深く触れられていないが、単純に言えば「用途」ではないか。日本の消費者金融の利用者が家計のやりくりやレジャーなどの目的で借り入れるのに対し、グラミン銀行は基本的に個人が事業を興す企業資金である(多分)。

だから、そもそも基本的に役割が違うのであって金融包摂とは関係ない。比較がそもそもナンセンスである。

借金の用途。会社員は家計とレジャーで85 %を占める。

 

自由主義は高嶺の花(金利規制の背景)

消費者金融が我が世の春を謳歌し、経営者が高額納税者ランキングの常連だった業界が急速に減速したのは2006年の改正貸金業法である。これによって出資法の上限金利は29.2 %から20 %に引き下げられ、利息制限法との間に存在したグレーゾーン金利も消滅した。

さらに借入金の上限を年収の1/3とする総量規制も導入され、消費者金融各社は軒並み過払金の支払いに特別損失を計上し、赤字に転落し、リストラを断行し、銀行傘下に収まるか倒産することになる。

金利を制限するこの改正貸金業法は、大きな議論になり、金融機関の既得権だけでなく橋本徹をはじめ自由主義経済の視点からも反対が多かった。この議論に一つの方向性を与えたのが、2005年に金融庁に設置された「貸金業制度に関する懇談会」の報告書である。この報告書で、懇談会の事務局を努めた森雅子信用制度参事官室課長補佐は、幼少期貸金業者からの過酷な取り立てを受けた経験があった。

森は、「金利規制がない方が多重債務者は少なくて国民は幸せになる」という業界側の主張に疑問を感じ、上限金利のないアメリカとイギリスで実際に貸金業者を回って現地の状況をつぶさに観察した。そこで見たのは貧困層が高利に喘ぐ姿だった。森は『自由主義経済・自主規制が本来のあるべき姿ではあるが、それを日本で実現するには業界も消費者もあまりに未成熟である。』と報告し、これが懇談会を金利引き下げに向かわせる一因となった。

金利の規制には反対論者も多い。資金需要は存在するのだから、いたずらに金利を規制すれば正規の貸金事業者がサービスを提供できなくなり、結果的に闇金業者が肥太るだけである、という論理だ。

私も個人的には双方が合意したのであれば、金利の規制は必要ないように思う。一部のエリートが愚かな国民を導くというパターナリスティックな運用が、経済の新陳代謝を阻害し、成長を抑制し、消費者利益を毀損している、そういう印象を強く受けるからだ。

しかし、実際には闇金に流れるということはないようである。新古典派経済学が想定する「合理的経済人」というものは存在せず、行動経済学が示すように個人の行動にはバイアスがあり、ときに非合理的な選択を好むことが知られている。つまり、金利規制は単なる温情主義ではなく、学問に基づいた合理性があることが証明されているようである。

業界も消費者もあまりに未成熟である。という上記の報告は、貸金業法に限らず様々な分野で当てはまってしまうかもしれない。歴史は一巡したのだろうか。

んで

よく調べていると思うし、「昔はこうだったのか」と驚くことやウンチクも多い。消費者金融=悪みたいな画一的な書き方をしていないのもいい。ただ、テーマ性がやや弱いと思う。LINEポケットマネーについての言及が少しあるが、これからの消費者金融の役割や姿を示すような章があっても良かった気がする。売る。

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