東京オリンピックが終わった。
いろいろあったのだろうが、まぁ自国開催・地元開催などもう死ぬまでないだろうから、適当に無責任に思ったことを言わせてもらおう。
東京の時間的歴史点・空間的座標点
国立競技場は当時のザハ・ハディド案が潰れ、隈研吾の便器に似た地味なデザインになり、それが2022年の北京五輪(冬)の未来的なスケートリンクと比較されたりして暗い印象だが、個人的にはそもそも建て替えが必要だったのかと思う。
先日の8月6日に合わせてNHKが原爆の特集を放送していたが、国立競技場の前身である神宮外苑競技場は学徒出陣の壮行会が開催された場所なのだ。神宮外苑競技場は、1957年に解体されて、1964年の東京オリンピックに使用されるので、既に旧国立とは異なるものだが、会場を始め開会式・閉会式の演出は、東京という都市・日本という国の歴史点に突き当たっていない。
閉会式のフランスのPVがいたく好評だったが、私も同感である。歴史と革新のコラボレーション。聞けば馬術はベルサイユ宮殿で、BMXはコンコルド広場で、フェンシングはグラン・パレで、サーフィンはタヒチで開催されるという。これに魅力を感じない人がいるだろうか。
すぐ建て替えてしまう、という文化は、伊勢神宮が60年に一度建て替えるということと無関係ではないように思う。円環を描いて終わらない時間意識が、歴史に対する態度の差になっているのだろうか。
問われる「東京」という物語
では、東京に存在する歴史と革新という時間軸上の物語、そして日本と世界という空間上の物語とは何だろうか。私にはそれは示せないが、二つヒントを思い出す。
一つはペプシのCMだ。これはこれでマッドマックスのパクリと言われそうだし、パリと比べてどうかと言われると自信がないが、少なくとも「行く年・来る年」と揶揄されるより100倍エネルギーを感じる。オリンピックはお祭りだ。
後述するが、日本の高齢化というのは単に社会保障などの問題ではなく、日本という国自体が古い価値観から抜け出せず、世界をリードする新しい価値観を許容できずに老いた大国として衰退していくという深刻な問題があるように感じる。しかし、このCMはそんなことは感じさせない、ある種の歌舞伎者のエネルギーを感じる。
もう一つは、YASUJI東京という杉浦日向子の漫画である。これは幕末から明治初期、江戸から東京へと変貌する東京を描いた井上安治という画家を通して、”東京”という都市の物語を読み解く。
こちらはやや感傷的かも知れないが、明治維新、関東大震災、太平洋戦争、東京オリンピック、高度経済成長、バブル、失われた30年。。。
この原野の上に、今現在展開されている<東京>という現象は、人々の想念のカタマリだ。人々もまたこの地の<意>によって吹き寄せられた<動く土>で、家並みやビル群は生茂る<葦>だ。原野が私たちに夢を見続けさせる。
こういう東京感は、海外からだけでなく日本でも受け入れられないだろう。少なくともオリンピックの場にふさわしいかというとそうではないと思う。しかし、一つの東京、日本、日本国民という歴史の一つの側面ではあると思う。
破綻寸前の日本的意思決定
開会式直前のゴタゴタを見ているだけでも、いかに日本が組織として統一されていないかが頻繁に指摘された。下記の椎名林檎の指摘は、今回の開会式・閉会式だけでなく、日本的な意思決定の弱さをよく表していると思う。
椎名林檎「誰もいいって言ってないのに、なぜかいろんな都合で、あっここはこうなっちゃって、ここはこうなっちゃって、組み合わせチグハグでアチャっていうのが一番怖いじゃないですか」
こうやって、太平洋戦争に突入していったのだろうか。よく言われるように、日本には独裁者に近いような強いリーダーがいない。弱いリーダーが総花的でストーリーのない、ツギハギだらけの開会式・閉会式を生んでしまう。コロナでもオリンピックでも、よくない面が出てしまった。
この2人が今回の閉会式を観て何を思ったのか、また対談してほしい。
pic.twitter.com/3Us6RkMmrk— なまっちゃ🍵抹茶家/ 千休CMO(Chief 𝕄𝕒𝕥𝕔𝕙𝕒 Officer) (@namatcha_) August 8, 2021
スケートボード、サーフィンの希望
今回のメダル数は過去最多らしいが、印象的だったのはスケボーやサーフィンといった、あまりメジャーでなかった競技でメダルが取れていることだ。
高齢化は日本だけの問題ではないが、世界で見れば人口の最大の母集団は20代、つまり2000年以降に生まれた世代であり、今後の世界は彼らの価値観が大きく作用してくるだろう。
年老いるとどうしても既存の競技にしか目が行かないが、GDPの成長率がほぼゼロという失われた30年のその間にも10代・20代の芽は蒔かれ育っていたということ。それが、老いた大国として衰退していくのではなく、少々大袈裟だが日本の未来にとっての希望のように映る。
なんだかんだ、終わってしまって寂しい。
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