市中銀行を消滅させるCBDCのインパクト。「発行しない」ということも大きな決断に(ソラミツ 本の小並感185)

読書

イノベーションを実現する気鋭のスタートアップ

ソラミツ、と言っても何のことか分からないだろうが、その道の人間では知る人ぞ知る存在である(多分)。

カンボジアに世界初のCBDC=Central Bank Digital Currencyを導入した日本のスタートアップだからだ。

しかし、これはCBDCのインパクトを知らないと「だから何だ?」となってしまうだろう。単にソフトウェア開発の物語に聞こえてしまうだろう。

市中銀行を消滅させるインパクト

Trade logさんによると、CBDCには下記のようなメリットがある。

  1. 現金の輸送・保管コストの低減
  2. ATMの維持・設置費用の低減
  3. 銀行口座を持たない人への決済サービスの提供
  4. 脱税やマネーロンダリングなどの捕捉・防止
  5. 民間決済業者の寡占化防止
  6. キャッシュレス決済における相互運用性の確保

あっさり書いているが、Suicaや○○payといった電子マネーは愚か、クレジットカード、場合によっては市中銀行すら不要になってしまうようなインパクトがある(現実はそうはならないだろうが)。

この本は、ソラミツがどのようにしてカンボジアにCBDCを導入したか、という物語なのだが、本書の中でも度々カンボジアの市中銀行との協業に言及しており、そのことは逆にCBDCの破壊的なインパクトをよく物語っているように思う。

国民国家か、グローバル資本主義か

社名変更で何かと話題のMetaは、Facebook時代リブラという暗号資産の開発で批判された。

これは、28億人が利用するFacebookという営利のプライベートカンパニーが暗号資産を発行すれば、一国の中央銀行が発行するCBDCよりも遥かに大きなインパクトをもたらすからだろう。

国際的な通貨制度、金融政策・財政政策などのワールドオーダー、そして我々個人個人にも大きな影響があることは何となく想像できる。

大づかみに言うと、いま日本を含めて地球上のすべての人々は「国民国家とグローバル資本主義の利益相反」という前代未聞の状況を前にしている。
出典:内田樹の研究室 国民国家とグローバル資本主義について

 

ここでわれわれは、資本主義か主権国家かという問いに直面する。ピケティは経済システムとしての資本主義は守るべきだとしつつ、国家を守るために「グローバルな資本課税」を提案する。それは今はユートピアだが、人権を守るために必要なユートピアかもしれない。

国家は巨大な資本の力の前には無力にみえるが、軍事力を発動すれば、資本主義をコントロールすることは不可能ではない。ブッシュ政権は「マネーロンダリング防止」と称してケイマン諸島に介入し、EU各国の警察はリヒテンシュタインの銀行を差し押さえた。
出典:ピケティと主権国家

「発行しない」ということも大きな決断に

そこへ行けば1企業ではなく国家が発行するCBDCは、まだ非常にマイルドである気がする。

カンボジアは自国通貨の脆弱性とデジタル人民元の脅威などから、CBDC導入を決定した。もちろん企業の技術力も重要だろうが、CBDCの導入に必要なのは、国家の意思だろう。やる・やらないの意思だろう(機会は与えられているのであり、その意味で最も肝の部分が非常に退屈だ)。

日銀はCBDC導入の計画はない。しかし、今後の環境変化を見据えて準備を進めておくとしている。暴れ馬の手綱を握り、利害を超えたイノベーションで国民の幸福を実現できるだろうか。

日本銀行として、「現時点でCBDCを発行する計画はない」というこれまでの基本的な考え方に変わりはありません。ただ、「CBDCを発行する」ということが大きな決断であると同時に、世界各国で真剣な検討が進む中で「発行しない」ということも大きな決断になってきています。
出典:中国「デジタル人民元」利用のマネロン事件で初の逮捕者

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