なぜこんなこともできないの?
こんにちは。
皆さんは、例えば闇金ウシジマくんのような漫画を読んで、多重債務者やギャンブル依存症、または猫の多頭飼いをするような方に「なぜ」と思ったことはないでしょうか。なぜこんなにだらしないのか、なぜ約束を守らないのか、なぜ毎回毎回遅刻するのか。
そして、そんなことでは貧困に陥るのも仕方がない、と感じた方もおられると思います。この本の著者もそうでした。
脳の機能障害とはどのようなものか
著者は、長年貧困に苦しむ子供や女性、若者といった人たちを取材してきたルポライターなのですが、ある日脳梗塞を発症してしまい、その後遺症で高次脳機能障害という障害を患います。本書は、それによって、これまで取材対象だった貧困の当事者たちの心境や置かれた環境がどのようなものか初めて理解した体験記です。
それまで著者は、貧困と当事者のパーソナリティとを結びつけることを意図的に避けてきました。それは、自己責任論に発展すると言った懸念からなのですが、現在では、そのことを後悔していると語っています。
それは、以前の著者は、「彼らがだらしないのは、事情があって仕方のないこと」だと考えていたのですが、現在は、「彼らは、そもそもだらしなくない。必死で頑張って時間や約束を守ろうとしても、どうにもならない」という現実を知ったからです。
実際どうなるのか
実際どうなるのか?なんですが、ある日著者は仕事の打ち合わせの最後に、「次のミーティングはいつがいいですか?」と問われてパニックに陥ってしまい答えることができなかった経験があります。
普通に考えれば、それほど難しい質問ではないわけですが、それに答えるには、今自分の抱えている仕事は何なのか、それぞれの進捗はどうなのか、完了までに必要な時間や準備、進める順番などなどの情報を把握して整理されていなければなりません。ですが、脳機能障害を持つ著者は、そう言った中長期の業務の把握というのが困難で、「次のミーティング」という簡単な問いに答えられなくなり、パニックに陥ってしまいます。
それ以外にも、文章の意味が理解できなかったり、探し物が見つからないようになったり、論理的なコミュニケーションが困難だったり、自己決定ができなかったり、その場での即答ができなかったり、そしてそれらをなぜできないのかを説明できないといった状況をあげています。
貧困当事者のバックれ率が異様に高いということを著者も認めているのですが、それはそういった状況に陥ると、次第に自信が失われ、自罰感情に苛まれるようになり、ある時限界を超えてしまうとバックれという形で現れることになるといいます。
重要なのは、彼らは必死に頑張っている、ということです。普通の人から見れば「なぜこんな簡単なことができないのか」、「サボっているんじゃないのんか」と思う事象でも、本人は真剣に取り組んでいて、それでもどうにもならないということです。
著者は、徐々に脳機能を回復していき、彼らの言葉を翻訳することが可能になりるのですが、その時の体験を「圧倒的不可能性」を感じたと表現しています。そして、貧困を脳機能障害の二次症状と位置付けています。つまり、貧困は自己責任ではない、ということですね。
違和感
ここからは感想なのですが、まず貧困の原因は全て脳機能障害なのかというと、そうではないでしょう。もちろん脳機能障害が原因で貧困に陥っている人もいるでしょうが、貧困の原因は他にも考えられるかと思います。また、貧困当事者が全員必死に頑張っているのかというとそうとは言い切れないと思います。
当たり前に聞こえるかも知れませんが、この本では「貧困の原因は全て脳機能障害であり、全員必死に頑張っているのだから、貧困は自己責任ではない」という勢いなので、かなり違和感を覚えました。
私もバックレたくなる時が多々あるので、読んでいるときに「自分も脳機能障害なのでは?」と何度も思ったのですが、恐らく怠惰で無気力なだけでしょう。そして、そのまま貧困に陥る可能性も十分あるように思います。仮に脳機能障害と診断されたとしても、「だからなに?」という気もしますしね。
まとめ
まとめると
- 脳機能障害の体験談は面白く、当事者の状況や心理がよく分かる。特に「必死に頑張ってもどうにもならない」という状況を理解し配慮する必要がある。
- 一方、貧困の原因を全て脳機能障害に求めるような意見には無理がある。「自分も脳機能障害なのでは?」と思うが、恐らく怠惰で無気力なだけ。そのまま貧困に陥る可能性も十分ありますし、仮に障害でも「だからなに?」という気もしました。
本日は以上です。また次の読書でお会いしましょう。
メモ
貧困は個人の責任
たとえば、えらいてんちょうは、「貧困は社会のせいだ!」と信じて、生活保護申請随行のボランティアをしたら、クズばっかりだった話 のなかで「社会の責任だと思って頑張ってきたが、数々のケースにあたるうちに、これは社会の責任ではない、無駄に貧困になって無駄に死んでいく人間は一定の割合でおり、これに寄り添うことになんらの意味がない、という結論に至った。自民党は正しい。」としています。この個人の責任のうち何割かが脳の障害であることは理解できるのだが、、、
症状は高所登山に似ている
脳機能障害の症例が高所登山に似ているなと感じました。世界的なアルパインクライマーである山野井さんは、低酸素環境下での体験として、思考能力が鈍るという話をしています。例えば、1+1は?と問われたら分かるが、5-3は?はもう分からない。分かるんだけど、もう疲れてしまって考えたくないという心境になることを語っています。
生活保護Youtuber
この本で紹介されている生活保護受給者のYoutubeを何本か見てみたのですが、漫画を読んだりゲームばかりしていたと公言する人もいて、正直あまりいい気持ちはしませんでした。生活保護を抜けた方もおられるので、そこは素直にすごいなと思うのですが、感情的には「脳に障害があるから仕方ない」と割り切ることができないものを感じました。
障害のグラデーション
また、一言で脳機能障害といっても色々な種類があり、障害の度合いもグラデーションがあります。例えば、著者は脳梗塞直後は、短期記憶障害から買い物が困難でした。798円と言われたあと、財布に目を落とした瞬間、もう値段を忘れているんですね。脳機能障害の特徴として「外から見えにくい」というものがあるのですが、さすがに、ここまでくると「あれ?」と思うことも増えそうです。ですので、一言で脳機能障害とくくることはできないと思います。
実験
これから、ある単語を言いますので、みなさんはそれを逆から再生してみてください。良いでしょうか。10文字からなる1単語です。それでは行きます。
ずあたする・おおんざさ
今言った単語を逆から読んでみてください。どうでしょうか。
書くとこうなります。逆順に読むと「さざんおお・るすたあず」ですね。こうやって書き出すと簡単なのですが、口頭で述べられて逆再生しろと言われても難しいと思います。
- ずあたする・おおんざさ
- さざんおお・るすたあず
なぜこんなことをしたかというと、これが、脳に障害を持った人の置かれた状況に近いものなのだそうです。
目次構成
- なぜこんなこともできないの?と思ったことはないか
- 闇金ウシジマくん、多重債務者、猫の多頭飼い、ギャンブル依存
- なぜ
- なぜこんなにだらしないのか
- なぜ約束を守らないのか
- なぜ毎回毎回遅刻するのか
- なぜ切羽詰まった状況で他人事なのか
- なぜ支援者に嚙みつくのか
- 貧困に陥るのは仕方がない、著者もそう思った
- 本の紹介
- 貧困の現場取材してきた
- 脳梗塞で脳に障害を負った
- 初めて分かった貧困当事者の声
- 貧困と障害とを意図的に結びつけなかった、それを後悔
- 実際どうなるのか
- 具体的な障害
- 短期記憶障害 会計ができない
- 注意障害 実体験
- 時間感覚の喪失 実体験
- 本人
- 圧倒的不可能性
- 必死に頑張っている、サボっているのではない
- 外からは見えにくい(見えない障害ともいわれる)
- (高所登山の低酸素環境に似ている)
- 具体的な障害
- 貧困は脳機能障害の2次症状
- 脳のせいである
- 自己責任ではない
- 違和感
- 私も脳機能障害かも知れない
- 貧困が全て脳機能障害なのか
- 制度的な提案は実効性疑問
- 開き直りはいい気分ではない
- まとめ
- 体験記として貴重
- 少し気持ちが分かる気がするし、優しくなれるかも
- 全てそのせいにすればOKではない


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