ただしテーマ性を除く
羽海野チカは技術が高い。
絵、構図、全体のストーリー、毎回の見せ場、話の展開、キャラ立ちした登場人物、心理描写などなど、およそ素人が思いつく漫画に関する全ての技術が高いことが感じられる。ただし、テーマ性を除く。
「居場所」問題
ハチミツとクローバーでもそうだったが、3月のライオンも「居場所」をめぐる物語だ。あらすじをwikipediaから抜粋する。
桐山零は、幼いころに交通事故で家族を失い、父の友人である棋士、幸田に内弟子として引き取られ、15歳でプロ棋士になった。幸田の実子の香子たちとの軋轢もあり、六月町にて1人暮らしを始めた零は1年遅れで高校に編入するが、周囲に溶け込めず校内で孤立し、将棋の対局においても不調が続いていた。
自らの境遇を停滞していると感じていた零は、ある日先輩棋士に無理やり付き合わされたあげくに酔いつぶされ、倒れこんでいたところを川本あかりに介抱されたことがきっかけで、橋向かいの三月町に住む川本家と出会い、3姉妹と夕食を共にするなど交流を持つようになる。
出典:wikipedia
家族を亡くし、引き取ってくれた師匠の家庭を不和に陥れ、罪の意識に苛まれる桐山は自ら家を出る。将棋の漫画といえばそうなのだが、基本的にはこの桐山が自身の「居場所」を探す物語なのだ。
父親が死んだ時、父の友人であってプロに「君は将棋、好きか」と問われる。桐山ははいと答えるが、しかしそれは「居場所」が欲しいだけの嘘だった。
中学生でプロになった桐山は高校に行く必要はないが、あえて高校に行く決断をする(それも一年遅れの編入)。それも「居場所」を探すためだ。
全てを手に入れる桐山少年
一見不幸な少年として描かれる桐山はしかし、その実、全てを持っている。
凡人では決して手の届かない将棋のプロに中学生で合格し、巨乳で美人のおねーさんがいる川本家とは家族同然の暮らしを送ることになる。
この漫画はヤングアニマルという男性誌に連載されているからだろうか。幸薄な美少年、天才棋士、そして家庭と女性。全て手に入れる都合の良さに腹が立つ。そして死ぬほど羨ましい。
大丈夫、うまくいくよ恋も仕事も
桐山にとって将棋は、「居場所」を得るために手段だった。では、「居場所」を手に入れた桐山は今後何をモチベに将棋を続ければ良いのか。
いや、そもそも将棋を続けるのか。将棋という鬼の棲家で修羅の道を極めるのに、中途半端で済むはずがない。
これについては今後を待つしかないが、既に展開は示唆されている。両方とる、だ。「大丈夫、うまくいくよ恋も仕事も!!!」都合のいいCMみたいだが、羽海野の技量から考えてもチープな展開にはならないだろう。だが、手元に置いておく気もしない。
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