マドカマチコの『WxY』、最近いつ笑ったか思い出せない鬱気味サラリーマンの処方箋

漫画

WxYという漫画をご存知だろうか?もう10年以上も前になるが、ヤングジャンプで連載されていたギャグ漫画である。久々に読み返したがやはり面白いので、もっと多くの人に読んでもらいたい。この記事を読んだ後、WxYを「おもしろそう」「読んでみたい」と思ってくれたら嬉しい。

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下ネタOKのサンドイッチマン的ギャグマンガ

何と言っても単純に笑える。人を笑わせるのは、傷つけたりすることよりよほど難しいが、それをシンプルなギャグであっさりとやってのける。コンスタントに笑えるポイントを盛り込み、誰もディスらない。どことなくサンドイッチマンのコントを思い出す。

エロ漫画家なので下ネタはあるが、カラっと乾いていていやらしい感じはない。作者であるマドカマチコは女性なので女性読者にもハードルは低いのではないか。

仕事が憂鬱だったりしてうつ気味の人、最近いつ笑ったか思い出せないような人に特にお勧めしたい。元気をもらえる。

説教臭さゼロでプロとしての矜持を問いかける

「漫画家漫画にハズレなし」というが、WxYもその例外ではない。特にキャラクターの思考や行動が変化するイベントで語られるメッセージには説得力がある。週刊連載になり横田が怖気づいているときや、ザネリのあいみに勃起して敗北を自覚し描けなくなってしまったときなどがあるが、個人的には、鷲尾が横田にカラー原稿を描くよう迫るシーンが刺さる。

担当編集者である鷲尾は2週連続のカラーページを獲得する。連載漫画家にとってカラーページは花形であり、作品の人気のために是非とも欲しい貴重な機会だ。しかし、横田はそれを1週にしてくれと原稿作成を承諾しない。それに対して鷲尾は言う。

人が大人しく聞いてりゃできない理由をぐちぐちと!能力に限界がある!?所詮あんたが決めた限界じゃないの!(中略)プロなら目先の限界より、その先の可能性にすがりなさいよ!

私にはこんな形で他人を動かすことはできない。私ならまずカラーページを取る前に本人にその意志を確認するだろう。そこで、もし「いらない」という回答があれば、それ以上何かをすることはないように思う。

よくいえば本人の意志を尊重するわけだが、悪く言えば主体性やリーダーシップに欠け、責任を作者に転嫁している。鷲尾のこの姿勢を見ると、作家にとっての編集者の役割が決して補助的なものではないことがわかるし、1人のプロ労働者として視座の高さを誤っていたことを思い知る。といって、説教臭さは皆無なので安心していい。

鷲尾にとって『あいみのつぼみ』は自分の作品である。それは横田自身が求めたことだ。

錆びついたオタクの時計の針が動き出す

主人公の横田は、一言でいえばオタクだろうか。大手漫画雑誌で週刊連載をもっているという時点で勝ち組っぽいが、個人としては冴えない中年で、非社交的。部屋に閉じこもって原稿に向かうだけの日々である。よくいえばストイックだが、その見かけ上のストイックさに逃げて、ポコニャンを脅かすこともない。

あいみの「モデル」は、中学時代の姉清美 → 成人漫画デビューしてから御生極ザネリ → 一般誌になって姉清美 → 愛美と移り変わっている※が、現実には叶わない自分の理想の女性をエロ漫画にするという「行為」は何年経っても変わっていない。

だから、彼には時間が流れていない。横田自身も自覚しているとおり、傷つくことを恐れ一歩を踏み出せないでいる。小さい頃の記憶、流れていく季節。積み重ねられる小さな出来事と、それらに揺られ変わっていく心。変わらないもの。それらが日常の仕事と笑いの中にちりばめられ、最後には極めて自然かつ健全な形で、その錆び付いていた時計の針が動き出す。

時を刻むことをやめた横田の時計

※ あいみのモデルの変遷については、下記のYahoo知恵袋に詳しい。パンチラキックの伏線の張り方一つとっても物語の全体構成がしっかりしていることが分かる。

愛美は何に騙されたのか(漫画WxY) - 第63話(永い秘密)で愛美が横田に別れを告げにくるシーンがあります。そこで愛美は「ずっと私... - Yahoo!知恵袋
愛美は何に騙されたのか(漫画WxY) 第63話(永い秘密)で愛美が横田に別れを告げにくるシーンがあります。そこで愛美は「ずっと私を騙して来た罰よ」と言いって去っていく訳ですが、愛美は何を騙されたと思っているのでしょう?第62話で愛美は横田の小さい頃のスケッチブックを見つけます。そこには恐らく姉orあいみのエロシーンが書...

最近、笑ったのはいつですか?

最近いつ笑っただろうか。思い出せない人はWxYを読んでみて欲しい。カラッと笑えて少し元気が出るから。

なお、作者のマドカマチコについては、ほとんど情報が出てこない。現在は漫画を描いていないのだろうか。これだけのクオリティの漫画を描けるのに惜しい。また描いて欲しい。

いろいろ書き足りないので、伝わらないとは思うが書いておく。

  1. 物語の始まりと終わりがリンクしている。始まりは、窓の外は春なのに部屋で一人裸でエロ漫画を描くシーンから始まるが、終わりのシーンも新しい季節、春が来る季節で終わる。
  2. 愛美が変質者を退治するシーンで、愛美は誰からも好かれるおじさんも素敵だけど、今のままでいて欲しい。おじさんが変わってしまったら、私のことを必要としない日が来るかもしれないからという。これは後の別れを暗示させる伏線になっている。エンディングでは愛美は横田に変化を促す。

 

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