オッペンハイマーという「窓」を通して見えてくる、当たり前として受け入れる日常の危うさ

映画

オッペンハイマーを観てきた。「内容の理解」と「映画の意味」を記載しておく。

内容の理解

内容については、たてはまさんの下記の動画がよかった。主観を排した「事実の解説」として、ポイントを押さえ、かつ分かりやすく整理されている。ありがたい。

【解説】結局どういうストーリー?オッペンハイマーのすべてがわかる解説動画【予習/復習】

核融合パートは何をしているのか

白黒で描かれる核融合パートは、ストローズの商務長官任命に関する公聴会である。確かに映画の冒頭にそのような説明はあるが、正直見ているときは「なにかやってんな」くらいだった。そしてその結末が、ストローズがオッペンハイマーを嵌めたのと同じ構図でしっぺ返しを食うという構図になっている。

丸テーブルの議論のシーンは

丸テーブルでの議論のシーンも分かりにくいが、これは、ソ連の原爆実験成功を受けて、今後のアメリカの戦略に関する議論である。水爆開発を進めるべきというストローズに対し、オッペンハイマーは反対する。ここで対立関係がはっきりする。

政治的「連鎖反応」

「連鎖反応」については、核爆弾そのものの懸念はなかったが、その後の核の拡散という政治的な「連鎖反応」を指している。

「科学者は罪を知った」

有名なセリフだが、原文は下記らしい。

In some sort of crude sense which no vulgarity, no humour, no overstatement can quite extinguish, the physicists have known sin; and this is a knowledge which they cannot lose.

(下品さ、ユーモア、誇張表現によっても完全に消すことのできない、ある種の粗野な意味で、物理学者は罪を知った。そしてこれは彼らが失うことのできない知識です。)

出典:Oxford Reference

よく、「銃が悪いのではない。銃を使って犯罪を犯す人間が悪いのだ」という論理があるが、銃を開発・製造した人間に全く罪がないとは言えないのかも知れない。

映画の意味

最初の感想

日本への描写云々は表層的な問題でしかないだろう。アメリカの自身の戦争犯罪への向き合い方という見方も私はしっくりこなかった。私は、アメリカという国を支えてきた「ヒーローの苦悩」と、「テクノロジーと人間の幸福」といった点かと思った。

「ヒーローの苦悩」については、クリストファー・ノーランの作品でいえば「ダークナイト」でよく描かれているし、例えば「グッドシェパード」では、対ナチスの諜報戦に携わり、CIA創設にも関わった人物の功績と家庭崩壊を描く。

「テクノロジーと人間の幸福」については、スケールは違うが「風立ちぬ」を思い出させる。人類最高の叡智を結晶化するという自身の夢と、その結果がもたらしたほとんど最悪の事態。果たして、科学技術の発展が、人類の幸福にプラスに作用したと言えるのか?

しかし、ここでは、下記のNHKのインタビューから、なぜこのタイミングで、この映画を撮ろうとしたのかを見ていきたい。

核の脅威は過去のものではない

インタビューの中で、ノーランは自身の息子が、「気候変動の方が重要であり、核の問題は大きな関心ごとではない」という意見に衝撃を受ける。ロシアのウクライナ侵攻では、実際に核の脅威が表面化しつつある。我々は今もオッペンハイマーの世界を生きている。

映画「オッペンハイマー」クリストファー・ノーラン監督に聞く | NHK
アカデミー賞で作品賞など7部門で受賞した映画「オッペンハイマー」。クリストファー・ノーラン監督は作品にどんな想いを込めたのか。話を聞きました。

オッペンハイマーという「窓」

カラーで描かれる核分裂パートは、オッペンハイマーの主観である。言われてみれば、大部分が、オッペンハイマーにこれまでのように機密情報へのアクセス権を付与するかと判断する聴聞会での、オッペンハイマーの回想である。

ノーランが「観客は、彼の視点から物事を見ていきます。それによって、重要な場面で、観客も、彼が直面したジレンマを経験することになります。」というように、私はそれがよく伝わってきた。その意味で、オッペンハイマーは「窓」である。当たり前のように流れる日常が、実は危ういバランスの上に成り立っていることを観客1人1人に突きつけている。

歌舞伎町タワーにある、109シネマのS席という6,400円のシートで観た。坂本龍一が音響を設計したのだそうで、単に爆音というのではなく確かに音に迫力があった気がする。それもあってか、トリニティの実験が成功したときの、オッペンハイマーの複雑な感情、表面的には実験の成功を喜びつつ、自身が開けてしまった新たな時代への恐怖がよく伝わってきた。

総じて、観てよかった。3時間だが退屈せず、スマホをいじりたいとも思わなかった。

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